『水際での「阻止」』なんて、実際にはできっこない。

先年看護学校の授業の一環として、成田空港の検疫所に見学に出かけた。
見学自体は、検疫職員のやる気のなさにイライラしながら、一通りの説明を受けて終了している。このエントリを書くにあたって、ちょうど一年前に自分が書いた感想文を読み返しているが、やたら高所見所から検疫所をぶった切っているのに対して「お前何様やねん」と自分ツッコミは入るものの、概ね今も似たようなイメージを抱き続けている。
受け入れるならそれなりのモンを用意しろ。
ただ、ここ最近になって新型インフルエンザの発生と、その世界的流行(「パンデミック」って言葉は、どの程度市民権を得たのか知らん)の状況を見るに、行ったこと自体には意義があったなと思い返している。
恐らく今年も一年生が成田に赴き、その感想文をネットで漁るかもしれないから一言書いておくが、自分の言葉で思うままに書きんさい。



  • 成田の検疫体制

成田空港の検疫施設で行われるチェックは、報道されている通り、「感染症発生地域からの帰国者に対する、アンケートによる問診」と「赤外線装置によるサーモグラフィの調査」の二つである。この二つしかない。
要は自覚症状がなければ、検疫の網は通り抜けることができる。自覚症状が軽微であれば、感染者本人がどの程度の認識を持っているかにかかっている。これはもう完全に、個々人の新型インフルエンザへの意識に期待するしかない。
サーモグラフィの方も、体温上昇ではっきりと判断できるのは「発症者」であって「感染者」ではない。ウィルスの潜伏期間に入国した人間であれば、赤外線装置で検知することは困難だ。
検疫所で引っ掛かった場合、感染者が案内される空港内の診療室は(感染者への対応は、今はどうなってるんだろうか。感染が分ったら、いきなり近隣の、新型インフル受け入れ病院に直接搬送して隔離、という流れなんだろうか)、2003年のSARS流行を契機に看護師増員(それでも13人くらいらしいが)が行われている。


ミウリオンラインより

 厚労省は29日、空港での検疫手順の流れを公表した。メキシコ、米国(ハワイ、グアムなどを除く)、カナダからの到着便で発熱などの症状を訴えた人に対し、「迅速診断キット」による簡易検査でA型インフルエンザに感染しているかどうか調べる。陽性なら、さらに遺伝子検査でウイルスの型を調べ、季節性インフルエンザのA香港型(H3N2型)でないと確認された場合、新型インフルエンザの「疑いあり」として、本人を感染症指定病院に隔離。同行者や近隣座席(前後3列程度)の乗客も、空港周辺の宿泊施設に最長10日間とどまってもらい、健康状態を経過観察する。最終的には国立感染症研究所でウイルスを調べて確定する。

  • じゃあどうしろって言うのか。

今現在のWHO、あるいは各国政府の対応は、社会・経済的なダメージと、人的被害のダメージを秤にかけて、それでもなお前者に天秤が傾くような対応を取っている。
もし本気でパンデミックを防ぐ気があるなら、「もう既に感染者は拡散してるから、封じ込めより対症療法でおk」なんて眠たいことを言ってないで、ばっちり入国を遮断するか、緊急以外の出国者(特に旅行者)を制限するとか、それは無理としても、迅速診断キットは全入国者を対象にやるべきだろう。(キット自体の数の問題があるなら、感染者が確認された地域から入国者のみでも仕方ないが)
新型インフルエンザの「国内での流行」、ひいては「死者出る可能性」を、本当に限りなくゼロに近づけたい、なら。
問われているのは、それを行う「覚悟」であって、その「覚悟の結果」による、感染者、犠牲者の多寡はそう問題ではない。だが、その「覚悟」はまだメキシコ始め、日本を含めた世界にはないようだ。
4桁以上の犠牲者を出してから、漸く天秤は人命に傾き始めるんじゃないか。



  • 追記

ニュースZEROより。
感染症対策に詳しいという医師のコメントを聞いていたが、潜伏期間中には診断キットを使っても陽性反応は出にくい、とのこと。