SFロマン文庫  SF少年文庫  岩崎書店

子供向けのSFシリーズだけあって、設定や世界観にがえらい陳腐なものが多いのは仕方のないところだが、その中にもなかなか読み応えのある作品は存在する。
評価を下すなら、上から順に、
読み応え−× ○ △ △ △ ×
悪い意味での面白さ−○ × △ △ △ ○
となる。
訳者の良し悪しも、作品の印象に大分影響する。「木星のラッキー・スター」に関しては、この部分で印象が悪くなった。



  • 凍った宇宙

20世紀末に宇宙に進出した地球人は、22世紀までに、水・金・火・木・土の5つの惑星を開発していた。
地球圏では、人を発狂させる「M放射線」が問題になっていた。地球の最高意思決定機関である科学委員会も、この放射線に冒されるなか、科学者のグリン、火星省のウェア、宇宙パトロールパイロットの、ドナルド、キット、デービスは、M放射線の発生源を突き止めるために地球を出発する。M放射線によって精神に異常をきたした、地球人と火星に植民した地球人は、互いに対立し、戦争は時間の問題となっていた。

オチを言うと、黒幕は火星人。滅び行く運命にあった火星人は、M放射線を開発して地球を奪おうと画策する。だが、地球を支配しようする勢力と、それに反対する勢力が内部対立から核戦争を起こして滅亡寸前の状態に陥ってしまう。事情を知らない地球人は、火星人に出会ってその復興に力を貸す。
火星人の大統領・カスウは地球支配を諦めきれず、海王星に基地を作り、そこからM放射線を発信して地球人を操ろうとする。
…いろいろ頭の痛くなってくる電波ストーリーだが、まぁ子供向けなんてこんなものだ。
物語のクライマックスでカスウは、グリン教授の知識を奪うために*1、5人を誘き出した、というが…罠を仕掛けた割に、穴がありまくる。
今まで味方だった人間が、M放射線によって突然敵に豹変する様子などは、なかなか緊張感があって面白かった。
今作の厨兵器:「サレ光線」→どんな金属もぼろぼろにし、放射性物質は爆発させてしまう。…筈なのだが、M放射線防護スクリーンには通用しなかった。なんだそれ。

凍った宇宙 (SFロマン文庫 (27))

凍った宇宙 (SFロマン文庫 (27))


原書とはイラストも異なる。右が黒幕火星人のカスウ。緑色で指が6本、腕の関節は2つあるらしい。




  • 太陽系の侵入者

ポール・フレンチ名義で書かれた、SF古典の祖であるアイザック・アシモフの作品。ラッキー・スターと、その相棒・ビッグマン*2を主人公にしたシリーズの1作。

地球人を先祖としながら、植民したシリウス星系で発達し、地球に対抗するシリウス人。
シリウス人は土星の衛星・チタンに基地を作り、今まで地球圏が省みなかった土星圏を植民地とすべく、既成事実を積み重ねていた。
そんな状況下、シリウス人のスパイ・Xが、収集した情報を本国に送るため、地球を脱出。ラッキーに追撃指令が下された。
ラッキー、ビグマン、ウェスを乗せた流星号は、Xを追って土星圏に侵入、Xを追い詰め、自爆させることに成功する。
だが、肝心の情報を入れたカプセルは見つからない。シリウス人の、土星圏からの退去勧告に従うと見せかけた流星号は、再び土星圏へ侵入を試みるが…。

アシモフは推理作家でもあるせいか、1つの大きな伏線を張って、それを最後に暴く、というエンターテイメントの基本方法がうまい。彼が考案した「ロボット工学の三原則」は、この作品にも当然存在しており、如何に精巧なロボットでもこの三原則の「穴」を突けば、簡単に無力化することが出来る。
ただの荒唐無稽なSF作品ではなく、「無人の世界は、最初に植民した者に与えられる」という、宇宙法の解釈を巡る地球とシリウスの対立*3を軸に据え、それに関する政治的な駆け引きを描くことで、作品にリアリティを持たせることに成功している。
終盤の、宇宙に散らばる各星系の代表者会議は、この駆け引きの妙が十二分に表現されている。

太陽系の侵入者 (SFロマン文庫 (2))

太陽系の侵入者 (SFロマン文庫 (2))





  • 木星のラッキー・スター

「太陽系の侵入者」と同じく、シリウス人とラッキーの対決を描いたポール・フレンチことアイザック・アシモフの1冊。

木星の9号衛星で、最新式の「アグラブ装置」を搭載した宇宙船の建造が、極秘で行われていた。だが、この宇宙船の建造の様子が、全てシリウス人に筒抜けになっているらしい。
ラッキーに、その機密漏洩を阻止するべく指令が下された。自らに近づく者の心を操作する、金星の動物「Vフロッグ」を連れたラッキーとビッグマンは、9号衛星に乗り込んだ。
シリウス人は、優れたロボット工学を駆使して開発したスパイロボットを、9号衛星に送り込んでいると考えたラッキーだが…。

ラッキーの相棒・ビッグマンは、火星生まれ。短気で思慮が足りず、子供っぽくて…なんでラッキーはこいつ連れてるんだろう…。
と、毎回こいつの行動のせいで窮地の中の更なる窮地に陥るラッキーだが、事態打開のキーパーソンになってくれるのもこのビッグマン。何この壮絶なマッチポンプ
この作品での伏線は「スパイロボットは誰なのか」という部分に絞られている。少し考えれば分かるのだが、こういった推理のさせ方はやはり巧い。

木星のラッキー・スター (SFロマン文庫 (28))

木星のラッキー・スター (SFロマン文庫 (28))


左下がビッグマン。重力の大きい星で育ったので背が低い、そこから洒落で付けられたあだ名だそうだ。




  • 第四惑星の反乱

アルファCの第4惑星に向かう宇宙船の中に、宇宙パトロール軍の新米士官・ラリーがいた。第4惑星は地球より1億年ほど若く、恐竜が全盛を誇る星である。
アクシデントはあったものの、無事第4惑星に到着したラリーたち。だが、第4惑星では、地球の支配に反発する人々が独立運動を起こそうとしていた。

敵の宇宙人も出てこなければ、超兵器も出てこない、若い主人公が自らの出自と経歴、夢、使命、友情の狭間でもがくさまを描く、SFとしてはやや異色に感じられる作品。
友であるハールやオーヘアが独立運動に共鳴して身を投じるなか、ラリーはあっちにフラフラこっちにフラフラしながら、自分の人生を決定する。
設定としての恐竜が、十分に生かされていないのがもったいない。





  • なぞの第九惑星

太陽の光が、何者かによって盗まれていることが判明した。このままでは、遠からず太陽は老化して赤色巨星となり、地球は滅亡してしまう。
考古学者である父とともに、インカの遺跡を調査していたバールは、自分たちが調査をしている場所の近くに日光横取りステーションがあるので、これを探し出してその機能を停止させて欲しいとの依頼を受ける。
バールはこのステーションで、偶然にもステーション内の機会を止めることができる電気の充電を受けたことで、他の惑星にある横取りステーションを破壊する遠征隊のメンバーに選抜される。

読んだ中では最も子供向けというか、いろいろ噴飯物の作品。
日光を横取りしているのは、冥王星人で、彼らは太陽を赤色巨星化させれば冥王星が暖かくなると考えて、日光を横取りする計画を実行したのだった。
冥王星人の造形と、ご都合主義と、表紙の絵が面白い作品。
今作の厨兵器:「原爆と水爆」→横取りステーションの破壊や敵宇宙船への攻撃にバンバン使用される。

なぞの第九惑星 (SFロマン文庫 (18))

なぞの第九惑星 (SFロマン文庫 (18))


全てにおいてセンスのない絵だが、まあ子供向け(ry
右上にいるのが冥王星人。髪の毛逆立ててスゴい形相のおっさんは誰だ。






SFロマン文庫、少年文庫は既に絶版となっているが、何冊かはSF名作コレクションとして復刊されている。
http://www.ne.jp/asahi/utatane/book/tosyokan/2005/kodomo-09-01.htm

*1:彼はM放射線を遮断する防護スクリーンを開発した

*2:訳者によって「ビッグマン」と「ビグマン」という風に呼び方が異なる

*3:シリウスが地球圏侵攻の大義名分としてこの宇宙法を盾にするが、地球側は「1つの恒星系より小さな単位では独立はできず、太陽系は『無人の恒星系』ではないから、土星圏におけるシリウスの植民と、主権の主張は認められない」という立場を取る