森薫は一生食べていけるだけの仕事をした。
いや、これはそのまま表題通りに。
森薫先生が、コミックビームで連載していたエマが完結し、先日遂に最終単行本となる10巻が発売された。
シャーリーで初めて森先生を知り、後にエマを追っかける身になったものとしては、感慨無量というと大袈裟だが、「完結した」という事実に対して一種の感動がこみ上げてくる。
今更ながらエマに関するエントリを振り返ってみると、なんとこのブログの「マンガ」カテゴリでレビューした最初の作品が「エマ」だった。
思えば、シャーリーを言い表す、「14歳」「黒髪」「メイド」という三つの要素。この三つの、ともすればマンガという生産物と、それの需要を生み出すオタクという消費者層によって、いかにも低俗に、もっと下種な言葉を使うなら「厨臭い」作品が生成されがちな黄金比率のエレメントをチョイスしたにも関わらず、森薫は本家英国発祥「メイド」に対する愛情と、「メイド」の表層をなぞって低俗に堕さすことのなかった天性のセンスで、「正統メイドマンガ」という新たな価値観を創造したのである。
それを踏み台にして描かれた「エマ」は、マンガらしい軽めのノリも持ち合わせつつ、ウィリアムとエマ、二つの階層に分断されていた男女のラブロマンスを大きな軸として、ストーリーで読ませる、文学のような作品に仕上がった。
1巻、2巻で垢抜けなかったエマの容姿は、巻を重ねるごとに女としての魅力を増し、最終巻で描かれた滑らかな曲線は、森薫の連載中に劇的に向上した作画力を裏付けている。
最終巻の最終話は、約3話に渡るエマとウィリアムの結婚式の様子が描かれている。今まで作品上で交わることのなかった、ジョーンズ家とメルダース家(そして両家の使用人達)の邂逅は、その両方を知る読者にとってはまさしく夢のコラボレーションで、そこかしこで描写される交流の様子に、ニマリと笑った人も1人や2人ではないと思う。
そして、ラスト。宴はクライマックスを迎え、祝い、飲み、歌い、食い、踊る登場人物たちは、思わず紙面を飛び出てしまいしそうなほどの躍動感に満ち、こちらまで楽しくなってしまうような雰囲気を放っている。
8・9・10巻に関しては「エマ」本編に対する外伝的な位置付けだが、それまでに登場した人物の日常的な、あるいは過去のエピソードや、ビクトリア朝当時の英国の雰囲気を、確かな考証で描くエピソードなどがあったことで、「エマ」全体の締めである結婚式のエピソードがより映える結果となった。
エマは、「メイド」というエレメントを持ち、かつそれを主役に据えるという設定で、ストーリー、描写、作品全体の雰囲気、ユーモアなど、全てにおいて高いレベルの作品になった。しかも、メイドマンガとして今まで「ありそうでなかった」、メイドを正面から捉えた作品として、そしてその作品を完成させた人物として、森薫の名は史上に、あるいは人の記憶にしっかりと刻まれるだろう。
そしてこの先、「メイド」というエレメントをしっかり受け止めた上で、エマに匹敵し得る、あるいはこれを超え得る作品は出てくるのだろうか。
こっからは肩の力を抜いて書こう。というか、上記の文章が変に酔っ払いすぎてるんだよ。自重しろ自重。
今更ながら、エマに関して自分が書いている物に軽く目を通してみた。エマは、自分が収集しているマンガの中でも、きちんと終わりまでレビューを書いている。
自分がシャーリーを買った頃、既にエマは3巻が発売された直後でだった。エマの存在を知ってから、それを購読するようになるまでは更にもう少し時を必要とするのだが、これは自分自身が「メイド」という表象を、オタク的に記号的な解釈をしていたからで…というより、メイドはメイドでも、妙齢で、しかもメガネっ子という地味ーなエマの属性に、どうにも惹かれるものがなかったからだった。
恐らくふとした切っ掛けから(多分立ち読み)エマの内容を知って、あわせて森先生の変態っぷりを知ってから、約4年間に渡ってお付き合いしたことになる。
しかし肝心のレビューとなるとお寒いもので、叫んでいる内容といえば、
「エレノア可愛いー!」
と
「エレノアに救いをー!」
の、ほぼこの二つである。まったく、語彙が乏しいにも程がある。そんなエレノアも、番外編を通じて救いの手が差し伸べられて一安心。
さて森先生は、この次はどんな物語を読者に見せてくれるのだろうか。
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「エマって何?」
「メイドを真に愛する変態の作者(女)が、『メイド』と言う記号の表象から受けるイメージを、オタ受けがいいように作り直した、いわゆるマンガやゲームで掃いて捨てる『メイドキャラ』とは一線を画す(ry)」
「要は本物の婦警さんとミニスカポリスくらい違う」