呼吸器で聞く面白い話。

看護学校の疾病論の中に「呼吸器」という項目がある。実習先の病院の呼吸器部長が来てくれるのだが、この先生の授業が、生徒へのアプローチ(というかちょっかい)を含めて、聞いていてとても面白い。
看護学校の外部講師は(これは当然学校ごとの差があるだろうが)、どちらかというと片手間にやっている人の方が多く、質という点ではいまいち疑問符がつくが、この先生を始め、何人かは受け手の集中力を切らさない授業を行ってくれて、嬉しい限りだ。



  • 悲喜劇

肺炎についての授業で、「間質性肺炎の原因の一つに、有機リンがある」と先生は言った。
曰く、

有機リン系の農薬による自殺が一時流行ってねー。
これは解毒剤がないから、死にます。100%死ぬ。
でも、即死じゃない。1週間か2週間かかって、苦しみながら死んでいくんだ。
だから、自殺で有機リン系の農薬を使うのはお奨めしないよ。苦しいから」

と。その話の流れで、パラコートという薬品の話が出てきた。これが含まれた農薬での自殺が多かった、という話。ウィキペの、パラコートの項にも、大体同じことが書いてある。

ヒトに対しては致死性が高く解毒剤もないため、中毒死者が多い。

ヒトの場合、服毒すると、嘔吐や喉の痛み、ショックが見られ、その後肝腎機能障害を経て特徴的なパラコート肺、すなわち肺線維症へと進み死に至る。致死率は現在の製剤でも 60%、従来のものでは 80% 以上と高い。これは液剤であることも関係しているという研究者もある。

神経系統は正常に保たれるため、中毒者は1週間前後、はっきりした意識を保ったまま苦しみぬいて死んでしまうことがほとんどである。

先生も、何人かこのパラコート中毒患者を治療した経験があり、そのほとんどが助からなかった。一番悲惨だったのは、

狂言自殺しようとした男がいてね、パラコート飲んで。
彼女と別れる別れないの話になったから、気を引こうと思って飲んだんだな。
で、うちの病院に担ぎ込まれて。
本人は狂言のつもりだから、本当に死ぬつもりなんてないし、死ぬなんて思ってないんだ。
あれはかわいそうだったなー。
『先生、すぐ退院できますよね?』なんて聞いたりしてね。
でも、どんどん悪くなってくの。
残念だけど、きみは死ぬんだよ」

いやはや、無知とは恐ろしいもんである。即死性はなくても、致死性のある農薬だと知らなかったばかりに。恋人の心を狂言自殺で繋ぎ止めようとした、その盲目さ故に…。


さて、「ほとんど助からなかった」というのは理由があって、唯一助かった例があるという。薬物中毒か何かで、ほかの薬を大量に飲んでたらしく、原因は不明だが、治療に成功して無事に退院したらしい。
飲んでいた薬とパラコートが中和されたんじゃないか、という結論になったが、それが先生の経験した奇跡的な一例だそうだ。




  • で、ブリンクマンてどんな人?

喉頭咽頭、気管、気管支、肺など、呼吸器系の疾患の大きな原因の一つになっているのが喫煙である。
喫煙が消化器系疾患の危険因子となり得る数値を算定する式に、いわゆるブリンクマン指数(ブリンクマンインデックス)が存在する。これは成人看護学の講義に登場した。
喫煙年数×喫煙本数/日=600以上
が危険因子になり得るとされている。
先生もこの点は踏まえた上で、

「『ブリンクマン指数』って、『ブリンクマンさんが提唱したから、「ブリンクマン指数」』って教えられたかもしれないけど、それで覚えないでね。
スモーキングインデックスで。
ブリンクマンは、『俺そんなこと言ってねーし。迷惑迷惑』
って言ってるんで」

とのこと。webで調べた限りではそれに関する裏付けはとれなかったが、個人的に面白いと思ったので載せておこう