インド 11月12日

織物屋のオヤジに連れられていったのは、見るからに普通のアパート。
オヤジが呼びかけると、程なくその「スゴいパワーを持ったグル」が奥からお出でになったが、どう見ても普通のおじいさんっぽい。
いろいろファイルを見せてもらうと、何やらグルが見たその人の相の図(右斜め、左斜めに引かれた数本の線が交わったひし形の中に、何やら数字が書いてある。)と、アルファベットで書かれた名前が。
日本人が何人もカモられているようだ。
山田FBなら(というか、彼ならここまで黙って大人しく着いて来る筈がない。最初に呼びかけられた時点でスルー)こんな小ズルいインド人に金なんぞ払えるか!というところだが、俺はこのインド人が例え誠実でも、「金を払いたくない」。根が渋いせいか、普通にお財布から金が出て行くのが嫌だったので、盛んに「見てもらえ」という織物屋のオヤジに、
「金ないよ」
と告げた。
「タイジョウブ。安い」
「…いくらよ」
「安い」
「…だから、いくらだって」
「Rs800」
日本で手相を見てもらったって、3000円くらいだろう。Rs800なら、日本円にして約2000円。多少験を担ぐか、それとも占いを信じるような人なら、納得して出す値段といえる。
で、俺は占いは余り信じないし、ただで見てくれるならともかく、宿代にして1週間分をポンと出すほど験を担ぐほうでもない。
無の心でお断りして、外へ出た。
「高くないよ、Rs800。安いよ」
「やー、高いって」
「じゃあ、いくらなら出すんだ?」
「Rs150くらいなら、考えないでもない」
オヤジは失笑。
店まで戻ると、オヤジは俺を招き入れて、いわく「シルクの座布団やショール」を見せ始めた。
「お前が朝一番の客だから、お前が買ってくれれば今日1日の商売がうまくいくんだ」
散々引っ張って説明させた後で、無の心で断る。
すまん、オヤジ…これで、今日の商売はうまくいかないかもしれない。だが、押しに弱い日本人の、全員が全員、素直に金を出すわけじゃないことを、これで学習しなさい…。
大幅に時間を食ってしまった。まぁ、ネタができたからいいか。
ゴウドリヤーまで出る前に、数人のリクシャ引きの包囲網。
サールナート行かないか」
「いい所だぞ、サールナート
って、おっちゃん、あんたサイクルリクシャ…。*1
1人だとどうしても押し捲られる上に、この街の相場がいくらなのかよく分からない。ので、バナーラス・ヒンドゥー大学でお寺と美術館を見てから、ラームナガル城へ行き、帰ってくる。
このプランをRs70で走らせることに決定。
少し大きな街になると、排気ガスが物凄いものだが、バ大の敷地に入ると、一気に空気が清浄になったのは爽快だった。バ代の敷地は広い。東京ドーム何個分、で表現できそうなくらい広い。
「何やってんの、あれ」
クリケットだ」
「へー。あんたクリケット好き?」
「大好きだよ」
美術館に到着して、受け付けでチケットを買おうとすると、止められた。
「今日は閉まってる」
「ハ?」
オジサンが、傍らに掲げてある看板を指差した。恐らく、開館・閉館について書かれているのだろう。そして、ゆっくりと言った。
「日曜と毎月第2土曜は休みだ」
事の次第がいまいち飲み込めずに、リクシャの兄ちゃんの所へ引き返す。今日は12日…木曜だったはず。
「どうした?」
「…なんか、閉まってるんだって」
「マジか」
「もう一回聞いてくるから、待ってて」
「じゃ、俺は寝てるから、来たら起こして」
「OK」
受付のオジサン達と、英語のできない若造の、見てて眩暈の起きるようなコミュニケーション。
「えーと、何で休みなの?」
「日曜と毎月第2土曜は休みだ」
「…。今日は12日でしょ?日曜じゃないし」
「だから、日曜と第2土曜は休みなんだって」
「…。あ」
休みが長いと、曜日と日にちの感覚がおかしくなりませんか?というか分からなくなりませんか。そして、この時がまさにその状態。
そう、11月12日は、
第       2       土         曜        日。
受付のオジサン達と、英語のできない上に頭の悪い若造の、見てて眩暈の起きるようなコミュニケーション。
ガックリしてリクシャに戻り、今度は大学構内のヴィシュヌワート寺院へ。
「俺はここで寝てるから…」
「戻ってきたら、起こしゃいいのね。オッケー。じゃ、行ってくる」

ここのヴィシュヌワート寺院は、ヒンドゥー教の寺院であるものの、全宗教に開放されている、とか。宗教意識の薄い日本人なら、まぁどの宗教相手でも対立することはないんじゃないか知らん、とは思うが。
大学の構内であるせいか、はたまたここの寺院だけお行儀がいいのか、店はあるものの客引きは寄って来ず、物乞いはいてもしつこくはない。

*1:サールナートはヴァラナシのすぐ近くだが、あくまで「地図上は」とか「車で行けば」とかいう話であって、徒歩や自転車じゃ距離的にきつい