エリア88 新谷カオル

とりあえず商品紹介に当たってはMFコミックス版を選択したが、残念ながら俺の持っているのは、スコラ文庫版(絶版)の方である。
何が切っ掛けかは忘れたが、ここ最近読んでねーなと思って読み返してみた。
…いや、大人になって改めて読み返してみると、いろいろとヒドい。それでも好きなことに変わりはないんだが…こんなに粗の目立つ作品だったっけ。

  • 敵キャラが…

幼馴染みで親友の神崎悟に騙された、主人公・風間真は、中東で内戦中のアスラン王国空軍の傭兵部隊に入隊させられ、傭兵専門の空軍基地・エリア88に配属される。
除隊するには、3年間の兵役満了を待つか、150万ドルの違約金を払うか…。
生き残って、神崎に復讐するために、恋人・津雲涼子と再会を果たすために、真は中東の大空を羽ばたく。

主人公が傭兵部隊なので、当然戦う相手がいる。反政府軍の正規パイロット、傭兵部隊…などだが、なかなか魅力のある敵が出てこない。
序盤で出てきたウルフ・パック隊は、「戦争のプロ」を自他共に認められながら、まともにぶつかった二度目の戦闘で壊滅。*1
エリア88の補給部隊をおそったフォージャー隊は、「ヒバリの巣」作戦を見破られて4話で敗北。
プロジェクト4の傭兵部隊隊長・バルナックは「凄腕」とされながら、88のパイロットとは一度も交戦せず、娘を追って88に強行着陸。銃撃されて重傷、最後は自爆。
ミッキーのライバル・マックバーンは、「ミッキーとは」何度か勝負するものの、最後は神崎に射殺される。
味方キャラクターには味のある魅力的なキャラクターが多いにも関わらず、敵キャラが引き立て役として全然力不足で物足りない。
一人一人に名前も付いて、それなりに背景もありそうだったマックバーン隊の奴らでさえ、いつの間にかいなくなってるし…。



  • 時折目に余るストーリー

原子炉が原動力の地上空母が、エリア88部隊の活躍でキノコ雲を立ち上らせて撃沈。空母に捕らわれていたグレッグを始めとする88メンバーは、もう…。


「あとで生き埋めにするつもりで、シェルターの中へ突っ込んだらしいからな…おかげで助かったみたいだ」


…え?グレッグたちが生き残った理由それで終了?
おまけにその地上空母にしてからが、オーナーの意向を無視して地上空母を乗っ取る(前兆一切なし)。
地上空母オーナーは、いつの間にか神崎と懇ろになっていた美人秘書に毒殺される(前兆一切なし)。
神崎の協力がなければ、涼子は違約金の150万ドルを調達できない。だが、その神崎が逮捕されてしまう。足りないのは4000万円…のはずが、いつの間にか150万ドル持ってアスランに向かっている(説明一切なし)。
恋人の涼子が違約金150万ドルを持ってきたら、契約が変更になって、「満期除隊」のみになる(説明一切なし)。
元凄腕の傭兵パイロット、ボッシュ登場。真を新たな作戦に誘うが、なぜか地上戦メインになる(必然性が…)。
ほかにも、大風呂敷を広げ過ぎた結果拾い切れていないエピソードがモリモリある。





  • ノローグが恥ずかしい

新谷マンガの特徴と言えば、作中に織り交ぜられるモノローグである。明確な主体はなく(おそらく「88」というくくり)、対象も特にはないこのモノローグ、近年の少年マンガでなかなか見られないこの作風は、新谷カオルが少女マンガ出身なのが原因だと思う。

「俺たちは死線の上の綱渡り…天国へ一歩…地獄へ一歩…どちらに踏みはずしても、シャバとお別れ!」




「血染めの空がおれをよぶ…かくした牙をみせろという…居心地悪かろと悪魔が囁く…もうおまえの手は汚れているのさと神様はそっぽをむいた…」



「頭上をかすめる排気音(バーナーノイズ)…青く輝く誘導灯(タキシングライト)…地獄を照らす着陸灯(ランディングライト)…その日、悪魔は"生きろ!"といった…」


「おれたちは外人部隊(エトランジェ)…紙キレよりも薄い己の命…燃えつきるのにわずか数秒…」

ノローグは徐々に少なくなっていくが、前半の各話の締めは万事こんな感じである。
今となっては「…なんか恥ずかしいな」と読んでいて思うが、当時はこれに酔ってたんだよなぁ多分…。






  • 細かく描写される戦闘機

「今はちょっとアレになっちゃった」松本零士を師匠に持つだけあって、各種メカニックは(連載当時の情報水準からいえば)相当書き込まれている。
機種も豊富で、F-8Eクルセイダー、F-100スーパーセイバー、A-4スカイホーク、C-2クフィル、ミグ27、J-35ドラケン、F-20タイガーシャーク、ミグ21、F-14トムキャット、A-10サンダーボルト、F-4ファントム、など実に様々な機体を、主に88専属の商人・マッコイが仕入れてくる。
エリア88登場機種で一番好きなのは、その形状からドラケンかなぁ。







しかし読み返してみて、欠点もあるけれどそこに突っ込みつつ一気に読んでしまった。やはりパワーのある作品。思えば、ゲームのエースコンバットにはまったのも、このエリア88に親しんでいたという下地があったからかも知れない。
最終巻ではほぼ全滅エンドで、ここまで大事に生き残らされてきた味方キャラクターたちも、華々しく(あるいは呆気なく)バタバタと倒れていく。
特にミッキーは、真にもっとも近い親友であっただけに、その死に様には涙せずにはいられない。

またエリア88のこの回は、エースコンバットの元ネタともいわれているが…実際どうなんだろう。

最後に、映像作品としてのエリア88についてちょっと言及しておく。アニメには昭和版と平成版があり、過去平成版のサントラについてエントリを書いた。
平成版



昭和版



このエントリを書くに辺り、改めてちょっと見直してみたが…おい、なんだこの平成版の圧倒的なやる気のなさは。
昭和版は音楽がいかにも昭和的というか、垢抜けていない(でも熱い)ことを除けば、ほぼ全ての面で高クオリティである。というか、OVA版とはいえ描き込みが凄すぎる。これ、セル画なんだぜ…。
技術の進歩、演出法だって増えているはずなのに、この差は一体何なのだろう。
懐古厨と言われようが、作品としては圧倒的に昭和版を支持したい。

エリア88 (1) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (1) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (2) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (2) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (3) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (3) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (4) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (4) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (5) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (5) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (6) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (6) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (7) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (7) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (8) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (8) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (9) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (9) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (10) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (10) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (11) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (11) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (12) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (12) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (13) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

エリア88 (13) (MFコミックス―フラッパーシリーズ)

*1:その後名前を聞くことがないので