この世界の片隅に(中) こうの史代
知った時期が良かったせいか、上巻からあまり間を置かずに中巻が出て嬉しい限り。
昭和の頃の夫婦って、こんな風にお互いをさん付けで読んだりしてたのかしら。「すずさん」と「周作さん」の間に流れる柔らかな空気が、とても心地よかった上巻。
だが…。
のんびり屋のお嫁さん・すずが、今度は花街を大冒険です!友達もできます!でもその人は夫の…。
物凄くザックリ説明するとこんな感じ。
またこの、すずが花街で会う「売られてきた」お姉さん達が、すずに輪をかけて、なんかポワポワというか、フワフワというか。
そもそも「この世界の片隅に」を知ったのは、掲載誌を何気なーく立ち読みしたら、ちょうど上巻にも収録されている楠公飯の回で、それがとても面白かったから。
ああ、こうの先生は笑いのセンスもあるのだなぁ、と。
花町のお姉さんが持つ「お客さんがくれた、私の名前を書いた、ノートの切れ端」と、夫の部屋で見付けた、裏表紙の切り取られたノート…。
一方、海軍水兵・水原哲が幼馴染のすずを訪ねてくる。気を回してすずを哲のもとに行かせる夫の周作…。
あああ、これは周作がずっとすずを想い続けてた*1と受け取ってただけに、すごい悲しい。男子の本懐って言葉はいいけど、ここですずを訪ねてきた哲もダメだ。二人合わせて「バカヤロー!」と殴りたい気分である。
「夫婦いうて、こんなもんなんですか?」
「…うちに子供が出来んけえ、ええとでも思うたんですか?」
いつも能天気なすずの言葉が重い。この回の最後は、笑いでまとめられちゃったけど。
哲とは何もなかった…よね?あの物置の中で。鈍いからなー。8割は安心してるんだけど。
そして、中巻の終りではついに、はっきりとした形で、「戦争」が牙を向いてくる。四国沖の米艦隊空母から艦載機が飛び立ち、呉を空襲する。
この場面の構成がすごい。こうの先生の漫画家としての高い実力を感じる。
いやしかし、これラストはどうなるのかなぁ。戦時下の日常、というリアルを踏襲している分、単純なハッピーエンドってのはないような気もするが、もはや現実の悲惨さは他の作品でも十分に語りつくされている。物語の最後に、(例えば登場人物が誰も死なない)ハッピーエンドという、これまでの流れを覆すようなファンタジーが折り込まれていても、作品を見続けて、すずたちを愛する読者が救済されるなら、そんなご都合主義だって、一向に構わないと思うのだ。
- 作者: こうの史代
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/07/11
- メディア: コミック
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*1:幼い頃、人攫いの籠の中で二人は出会っており、その後、そのことが切っ掛けですずを選んだことを、周作が示唆する場面がある