昭和浪漫風 少女漫画風  「この世界の片隅に」 こうの史代

それにしても、こうの史代である。
その最新刊、「この世界の片隅に」は、作者が、大ヒット作となった「夕凪の街 桜の国」と同じように、戦中の日本、特に広島を描いた作品である。
で、俺自身こうのさんの作品は「夕凪の街 桜の国」しか持っとりゃせんかったわけじゃが、どういうわけか掲載誌の一場面に惹かれてしもうてのう、思わず買うてしもうたんじゃ、ガハハ。



ギギギ。

広島を舞台にしたマンガといえば、まず一にも二にもはだしのゲンがくる。原爆というものを描いた作品では、ことマンガ作品という範疇で考えるならば、これ以上の作品は生まれないだろう。良い意味でも、悪い意味でも。
ゲンでは、「戦争反対を隠そうとしない父親は特高に連れて行かれて拷問を受け、その子供達も学校で、教師や生徒から激しいいじめを受ける」と初っ端からドンと「反戦」というテーマを描いている。原爆投下以前のエピソードが少ないのでそう感じるのかもしれないが、「戦争」という存在があまりにも大きい。
だが例えば「この世界の片隅に」では、原爆投下前の、日本の大部分の「普通の国民」の日常が、その作風もあいまって、あくまでほのぼのと描かれている。
しかしその中の、ほんの一つの伏線の意味を知ったとき、あるいは登場人物がさらりと言ってのける一言を目にしたとき、主人公の北条(旧姓、浦野)すずや、夫の周作が「戦争も日常の中にある時間」を生きていることに気付いて、思わずゾッとする。





この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)